圧巻だった。
私が観劇したのは大千秋楽の1日前。
グラツィア役の美園さくらさんが一足先に千秋楽を迎える公演だった。SNSの反響が凄まじく、期待値が爆上がりした状態で観劇しても、ゆうにそれを上回る興奮と感動で胸がいっぱいになった。
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WEST.小瀧さん演じるサーキ王子。人間の姿を借りて過ごす、死神の「はじめて」で「束の間」の休暇。
世界中で人が死なない2日。
この「2日」というのが、ちょうど楽しさがわかり始める、そしてもっと、もっと!もっと欲しい!知りたい!とその先を望んでしまう絶妙なバランスの時間なのかもしれない。
様々な「はじめて」を知るサーキ王子。
キュートでまるで子供みたいに無邪気で、好奇心の塊。花に触れてもその命が枯れないことに気づくこと。大人がたくさんの感情を持つ中で触れる「当たり前のはじめて」は、もう私には経験できないこと。もうすでにグッとくるものがあった。
愛らしいと思うことのひとつに、思ったことをそのまま伝えられる、という、人ではないのに、やたら人間らしい、いわば「人ったらし」な一面が見えたのが1幕だった。
ハンサムだからみんなからチヤホヤされるんじゃなくて、計算や駆け引きを知らないように思えた。嘘ってなんだろう?思ったことを伝えてなにが間違ってるの?「今は」本当にそう、思ってるけど。
そんな純粋な素直さが、周りにいる彼を初めて見る「嘘を知らない」サーキ王子に虜になっていく様子が、私の心をあたためていった。
しかし大事な友人を飛行訓練で亡くした、エリックの登場で徐々に関係に変化が現れる。
人間の世界を楽しめば楽しむほど、理解出来ることが増えれば増えるほど、生を死へと導く死神が、当たり前で正しいと思ってしていたことへの葛藤が増えていく。
死というものがその人の人生「だけ」ではないことを知る。
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グラツィアが婚約破棄し、サーキ王子に本気の恋をする。洞窟で起きた悲しくも美しい愛の物語をサーキ王子に話す。
死ぬことは幸せなことなのか、永遠の命として死を選ぶことならば、それが幸せと言えるのだろうか、じゃぁ残された家族は?悲しみを経験し乗り越え生きることとは…
このあたりからずっと大きな瞳に涙を溜めながらセリフを言い歌う小瀧さんに胸が締め付けられた。1幕のサーキ王子とはまるで違う。
嘘が時には必要な愛だと知っているグラツィアに言われるがまま、君を愛していないと、嘘をつく。
でも、どうしても嘘をつき通せなかった。
ちゃんと人間界を生きている死神/サーキ王子だった。
自分が愛を知らないことを理解し、そして古からずっと与えることはできず、奪うことしか知らない死神が、誰かに愛されることを知った時だった。はじめて、愛する人から「与えられた」瞬間だと思った。
ここから「愛ゆえに」どうするかの葛藤が始まり、私はグラツィアの父のセリフにぼろぼろと涙流した。娘のためなら差し出せる命。意外にもすっとその意味を理解し受け入れるサーキ(この時心はほとんど死神、この時の表情が忘れられない)。
家族愛、兄弟愛、好きな人への恋心、愛。
劇中垣間見える、冷酷な、淡々と職務を遂行する愛を知らなかった頃の死神の、光をなくした目をした小瀧さん。凄かった。凄まじかった。
演じるって、あんなにキラキラしていた目から光さえも奪えるんだと思った。
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サーキ王子はずっと、異質なものとしてその場に居た。それはまるで「死」そのもの。
私たちが生きている世界で「死」は特別で、異質なものだからかもしれない。
いずれ誰もが死ぬのに、理屈とは裏腹に受け入れられなくて悲しみに暮れる。まさに非日常なのだ。
今回のデスホリの結末では、死神に戻ってしまったサーキ王子と共にグラツィアは抱き合い旅立つ。
2人で永遠の命を求め湖へ入っていったのか。
それとも2日間の猶予を与えられ生き延びたグラツィアは本当に死に、サーキは死神としてまた淡々と人々の死を導いていくのか。
私もいろんな受け取り方をしてしまい、今はまだ結論を出せずにいる。
ただ、グラツィアは最期、自らの手で死神であるサーキに触れる。もう、死を恐れていないのだと思った。
死神は誰かの死を決める存在ではなくて、あくまで導く存在だというのが、このストーリーの面白さだった。
事故や自死、色々出てきたけれど、決めているのは自分自身。命がなくなる瞬間に、正しく導くのが死神。
恐怖の象徴みたいにして恐れられている死神だけれど、最期を知り、決めているのは他でもない自分なのかもしれない。もっと言うなら、運命を受け入れること、なのかもしれない。
ただひとつ願うならば。
「愛とはなにか」「目を見ても、手で触れても尽きない命」「生きる楽しさ」を知った死神が、またあちらの世界で生きて、人の死と向き合うとしたら。
過去のひとりひとりの死に際を詳細に覚えているくらいだから、どうか、誰もが当たり前にやってくる命果てる瞬間、導く時に苦しまないでいてほしいと願うばかり。
悲しみは少ない方がいい。
だけど、、だから、愛を知り、優しさを知る。
どうかグラツィアと、幸せにいてねと願わずにはいられなかった。
そして、穏やかな気持ちで、誰かを死に導いていけますように。死神、サーキのしてきた事は決して悪ではなく、運命への導きのような気がした。
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サーキ王子演じる小瀧さん。
高身長を活かしたロング丈の衣装もどれも素晴らしく、何でも着こなしてしまうところに惚れ惚れした!
重厚な衣装、翻る裾の美しさ、さばき方、歩き方。ダンスはもう、そりゃアイドルだから!長い手足が映えて、かっこよかった〜!
くるくる変わる表情の愛らしいこと。
不意に見せる横顔の美しいこと。
そして何より、歌が上手い。2022年のThe Beautiful Game も素晴らしかったけれど、どんどん上手くなる。ピッチがほとんどブレない。
持ち前の甘く優しい歌声に加え、こんなにも音域あったの?!と驚かされる音域の幅。
そして響き渡る圧倒的な声量。
胸がいっぱいになった…。
あぁ…もっと観たい。シンプルに今の私の感想。
10年後のミュージカル、主演、楽しみだな。劇場はどこだろう。
気が早い?ううん、絶対にある。
今から座席、予約させてほしい。
素敵な作品を観られて、私は死神に「与えられた」
と思った。
どうやら大千秋楽の日は満月らしい。
休暇、楽しめたかなぁ。
明日からも私は私を、目いっぱい楽しんで生きるよ。サーキ王子、ありがとう🍳🌕
2024.11.15